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黒澤の土曜日(12) 「赤ひげ」 [おきにいり♥]

月に一度、三鷹市芸術文化センターでの黒澤映画 上映会。
先12日は第12回。「赤ひげ」の1本上映でした。

「赤ひげ」は1965年公開。黒澤明、最後の白黒映画、
そして三船敏郎は黒澤映画に最後の出演となりました。

赤ひげ

赤ひげ

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2002/11/21
  • メディア: DVD
長崎遊学から帰京した青年医師保本登(加山雄三)は、貧しい町民たちのための診療所
小石川養生所勤めを勝手に決められて面白くない。最新のオランダ医学を学んできた彼は
自分は大名相手の御典医になるのだと思い込んでいたのだ。しかも、遊学中に婚約者に裏切られ
女性不信にも陥っている。世をすねたように養生所長の赤ひげ新出(三船敏郎)に反発し
決まりを破っては追い出されようとしていた。
しかし貧しい患者たちの生き様、死に様、そして
医者として人間としての赤ひげの度量を目にするうちに、登は自分の了見の狭さに気づいていく。


3時間超の大作です! 以前、ビデオか何かで観ているのですが、例によって
まるで覚えてなかったのに我ながらびっくりでした
特に休憩に入るまでの前半部分は、ほぼアウト。。。いい教訓です。
やっぱり名作は繰り返し観なくては!

確かに長い作品です。今の、例えばハリウッド映画では許されないような長い間(ま)があったり、
下手をすれば退屈してしまいかねないところですが、さすがは黒澤、中だるみなどありません。
要所要所で驚くようなワザを仕かけて、観る者を引き込んでいるのです。
例えば、座敷牢に閉じ込められている美しい狂女(香川京子!)が、登相手に身の上話をかきくどき
しなだれかかりながら一転、彼に襲いかかるところでは、歌舞伎や京劇の早変わりのように
メイクまで変わってすごい形相! 
あるいは後半のストーリーの要となる、心を病んだ少女おとよ(二木てるみ)。
世話をしようとする人々を避けて部屋の片隅に逃げ込むとき、彼女の目の辺りにだけ
ピンスポットのような光を当て、まるで暗闇に光る、おびえた獣の目のように見せたり。

そんなこだわりの映像だから、白黒なのにカラフルに感じます。実際、三船敏郎は、
ひげを赤く染めていたとか。今度の赤ひげ役は、あくまで威厳に満ちていて、彼としては
あまり見せ場がなくて(主役は加山雄三ですし)残念なのですが、例えば、ちょっと困ったときに
ひげを捻る仕草が「用心棒」あたりを思い出させてニヤリとさせたり、金持ちの大名や商人に
法外な治療代を請求する場面などに、この人ならではの人間味やユーモアをにじませて、さすが。
そして圧巻は、花街の用心棒たちを投げ飛ばし、妙な角度に曲がった彼らの手足を見ながら
「医者ともあろうものが、こんなことをしてはいかん」などとうそぶくところ。
医者がこんなに強いというのも仰天ですが、その言い草はもう、三船敏郎ならでは!

さらに地味に驚いたのが、言葉遣いが現代的だったこと。
「幕府が、養生所の予算を減らそうとしている」などという説明も、まるで
ニュースを聞いているみたい。使う言葉、言い回し、どれも時代劇ふうではないのです。
そんなこともあって、今の日本人が観ても、そしてどこの国の人が観ても、
第一級のヒューマンドラマとして評価される作品になっているのだと思いました。
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コメント 9

アートフル ドジャー

原作も読みましたが、この映画も個人的には好き!ですね。確かに編集権を買える大物か、編集の人を指定出来る監督でないと長編は現在では難しいですよねスコッセシは編集する人に台詞の余韻を大切に、決して尺の為にスッパスパ切らせないそ~ですけどね。
by アートフル ドジャー (2007-05-15 17:58) 

KEY

赤ひげが人間くさくて説教臭くないところが好きです。加山雄三が理想に燃えている若い医者らしい失望感から、彼からすれば人生の終着駅のような横町の人間模様や赤ひげから学んでいく様は良いなぁと思わされます。仰るように香川京子の出演シーンは、あそこだけ切り取ると怪奇映画さながらの凄味ですね。
個人的には山崎努演じる佐八が自らの身を削って働いて施す贖罪が明らかになった時、人が人を愛すること、憎むこと、許しを求めること、許すことなど多くの意味合いが含まれている重さに何か堪えきれないものを感じました。
by KEY (2007-05-15 18:27) 

映画のホントの面白さを知った映画でした。黒澤映画のヒューマニズムの代表作ともいえるかも知れませんね。観る機会があって良かったですね。
by (2007-05-15 20:23) 

説明書き読んで見てみたくなりました^^さすが説明上手ですね!しかし3時間超えとは長いですね・・・^^;
by (2007-05-16 16:12) 

いいですよね、この映画。小説もいいけど。
by (2007-05-17 13:52) 

私はこの映画、見たことがないんですよ~。でも、なおさんの文を読んでいると、すご~く見たくなってきます。映画館で3時間、もう何年も、経験してないかも~^^;
by (2007-05-18 09:07) 

Baldhead1010

いろいろとお気遣い、ありがとうございました。
PCもやっと戻ってきましたので、またぼちぼちアップしてゆきます。

またお立ち寄りください^^
by Baldhead1010 (2007-05-19 10:35) 

ぱふ

皆さま、コメントやnice! ありがとうございました。
ご返事がす~っかり遅くなってしまって、ごめんなさい!
迫り来る締め切りの恐怖と、日々戦っておりました。。。

「赤ひげ」は、原作も映画も、“人間っていいもんだ~”と思える名作です。
出会えてよかった♪
by ぱふ (2007-05-25 00:17) 

流星☆彡

はじめまして。おじゃまいたします。m(__)m
テアトル新宿での「黒澤明の軌跡」上映で この作品を観てきた者です。
ちょうど 香川京子さんと野上照代さん(記録)とのトークショーも聞ける上映で、
狂女を演じられた際の撮影秘話等を話されていて、黒澤作品初心者としては
非常に参考になる鑑賞となりました。
苦労知らずの青年医師が 世の底辺の人間模様を目の当たりにして、時に
腰を抜かしながら(!)その使命感に目覚めていく描写は 本当に見応えが
ありました。よく、苦労を知らないと 他人の痛みが分からないと言われたり
しますが、元から苦難に踏み躙られた貧民だけでは その逆境が改善され
ない…世の真理。恵まれた境遇から 救いの役目を担う者が出て来なければ、
世情の改善は なかなか進みません。そんな“神の目に留まった”若者を、
本来 お坊ちゃん育ちの加山雄三さんが 見事に演じておられて、演出の
巧みな妙に しっかりと取り込まれた…鑑賞感となりました。

黒澤作品にしろ 邦画を大スクリーンで観ることに疎かった “なんちゃって
シネマFAN”で ありますが、これからは ぜひ大スクリーンで名作邦画を
堪能したい!と 意欲も新たにしております♪(*^^)v
by 流星☆彡 (2007-06-18 12:08) 

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